気軽に着られるウールの着物は、着物初心者さん達から上級者さんにまで幅広く愛されるアイテムのひとつ。でもウールの着物の保管に失敗して、虫食い等のトラブルが起きてしまった…という人は意外と多いのではないでしょうか?ウールの着物の保管には、いくつかのポイントがあるんです。
「着物の保管のことはもう知っている」と思っている人も、一度自分のウール着物の保管状態をチェックしてみてくださいね。
目次
陰干しで湿気をしっかり飛ばす
ウール着物を着てから保管するまでの間に「陰干し」はどれくらいしていますか?ウール着物は日常的な着物である分、「パッと着てサッとしまう」というのが習慣となっている人も多いようです。でもこれが実は、ウール着物の虫食いトラブルを増やす一因なんですよね。
ウール着物を食べて穴をあける…いわゆる「虫食い」の犯人は、ヒメマルカツオブシムシという虫の幼虫です。この虫が大好きなのが「湿気が多くて暖かな場所」。着物の繊維の中に湿気が残っていたりすると、虫の繁殖が一気に始まってしまいます。
一度着たあとの着物には、汗や体熱による湿気がたくさん含まれているものです。「陰干し」をしっかりと行って、着物に湿気が残っていない状態にしてから保管するようにしましょう。
陰干しの方法
- ベランダや庭、または室内の直射日光のあたらない場所を選びます。
- 着物を物干しにかけるか、着物専用のハンガーにかけます。
- 風通しの良い状態であることを確認し、2~3日干します。(外干しの場合には、夜間には取り込んで室内に干します)
※室内干しの場合、エアコン・除湿機等で室内の湿気を取り除きましょう。
※扇風機などで冷たい空気を当て続けるのも効果的です。
※室内でも直射日光がさしこまない場所を選びましょう。着物の染料によっては、短時間でも日焼けすることがあります。
防虫剤+除湿剤も入れる
ヒメマルカツオブシムシの幼虫
ウール着物の保管場所は人によって差がありますよね。「桐の和ダンスにキチンとしまっている」という人もいれば、「気軽な着物の保存袋等を使っている」という人も居ることでしょう。理想的な保管方法を言い出せばキリがないのですが、とにかく気をつけてほしいのが「防虫剤」だけでなく「除湿剤」も入れよう!という点です。
防虫剤を入れておけばウール着物の虫を完全に防げるというわけではありません。上でも解説しましたが、虫食いの虫は「湿気」が大好きです。湿気が取り切れずに空気の淀んだ場所であるほど、ウール着物の保管中の虫食いリスクはどんどん上がっていきます。
そして現代の日本のマンションや一軒家は、昔の日本の住宅に比べて気密性がとても高いです。つまり昔より、クローゼットやタンスの中に湿気がたまりやすいんですね。昭和のつもりで除湿剤ナシで着物を保管していると、ヒメマルカツオブシムシ達の住みやすい環境を作り上げてしまいます。
クローゼットやタンスの抽斗等には、必ず除湿剤を置くようにしてください。また各製品の「置く間隔、置く量」を適切にすることも大切です。製品の説明書をよく読んで、十分な量を置くようにしましょう。
除湿剤交換はリマインドに入れて
ウール着物の保管では除湿剤・防虫剤の交換が重要なポイントになります。「虫干しの際に交換する」という人も多いですが、この時、除湿剤がすべて効果切れになっていた…ということはありませんか?
虫干しをどれくらいの頻度で行っているかやお部屋の湿度の高さ等にもよりますが、除湿剤の交換は3~4ヶ月に1回程度が理想的とされています。例えば年に2回虫干しをしている方の場合、虫干しと同時に除湿剤交換をしていると年2回交換なので「ちょっと交換が遅い」ということになりますね。
着物をすべて虫干しするのに比べれば、除湿剤や除虫剤の交換は比較的手軽と言えます。スマホや携帯のリマインド機能等を使って、頻繁に除湿剤を交換する習慣をつけるようにしましょう。
着物をたくさん詰め込まない
ウール着物の保管に失敗しない最後のコツは、実は着物上級者さんほど忘れてしまいやすいポイントと言えます。それは「着物を一箇所にたくさんしまいすぎない」ということです!
着物がひとつの空間にたくさん詰め込まれていると、繊維同士の隙間が少なくなり、空気が動きにくくなります。つまり換気が悪い状態です。この状態が長く続くほど、虫喰いやカビ等のリスクが上がっていきます。
どんなに除湿剤を入れていようと、着物をギュウギュウに詰め込んでいたら意味がありません。着物の枚数・保管状態をチェックしてみましょう。
タトウ紙1枚に対し着物は1枚!
着物を包むタトウ紙の中に、3枚も4枚も着物を重ねて入れている方が時々います。これは絶対にNG!タトウ紙には湿気を吸い取って着物を保護する役割がありますが、たくさん着物を入れたら力を発揮できません。
タトウ紙1枚に対して、入れられる着物は原則として1枚までと考えましょう。タトウ紙は現在ではネット販売もしていますし、当店のような着物クリーニング店でも単品販売しています。「着物を入れるタトウ紙が無い」という時には当店にもお気軽にご相談ください。
抽斗やボックスに着物を詰め込まない
タンスや収納ボックスの中に入れる着物の枚数は、保管するものの大きさによっても変わるので一概には言えません。ただ「フタを閉められるギリギリ」といった枚数になるのはNGと考えましょう。
一般的に、空気の通りやすい状態となるのは保管する箱の中の65%~70%程度までとされています。ギュウギュウになっている抽斗やボックスがあったら、着物の保管場所を増やすことを検討したほうが良さそうです。
着物の素材ごとに保管を分ける
ウールの着物と絹の着物、木綿の着物とポリエステル着物をひとまとめに保管してはいませんか?動物性製品であるウール着物と正絹の着物は、特に虫食いの被害に遭いやすい着物です。タンスやクローゼットの奥といった空気の淀みやすい場所は避けて手前に置き、頻繁に換気をすることが重要となります。
着物は「素材ごと」に保管場所をできるだけ分けて管理するのが理想的。特にウールと正絹はそれぞれ虫食いが起きやすいので別々に分けて、お互いに虫が移らないようにしたほうがリスクを減らせます。
おわりに
ウール着物の保管方法について、失敗しないために特に気をつけておきたい3つのポイントをご紹介しました。情報はお役に立ちそうでしょうか?「ウール着物の保管で湿気を取ることが大切なのはよくわかったけど、忙しいし、場所も無いし、そのとおりにするのが難しい…」という方もいらっしゃるかもしれませんね。
そのような時には、プロによる着物の保管サービスを使ってみるのも手です。着物の専門業が行う保管サービスであれば、素材に合わせて適切な保管状態をキープしてくれます。何よりお手入れの手間がないのが魅力です。当店でも着物のお預かりサービスを行っていますので、ウール着物の保管にお困りの場合にはお気軽にご相談ください。